60 「これは!うまい!!!」……。 20年来の友に連れられ銀座の飛雁閣を訪れた ときに一口食べて発したことばが「うまい!」だ った。医師という仕事柄、これまで世界中の名 店に案内され数え切れないほどの美味を食べ歩 いてきましたが、いつも「普通だね」と言うのが、 私の率直な感想でした。「うまい」には2通りの 表現と意味があります。「美味い」と、もう1つ は「上手い」。この2つの賛辞を同時に贈るほど の料理店は実は数少ない。飛雁閣は、この2つ を見事に体現した味と技、そして『薬食同源』の 知識をもつ名店でした。 日本では『医食同源』と言いますが、「薬食」 の方がより的確にこの考え方を表わしています。 明日の命と健康の状態を左右するのは「食」であ ることを私たち中国人は、2000年以上も前 から理解し、医科学としても研鑽を積んできま した。そういう意味では「食いしん坊」な民族だ と思われているかも知れませんが「健康長寿」を 願って様々な健康法や食文化を創作し、また同時 に、中国伝統医学と医療体系などを永年に亘り つくり上げてきた歴史の粋があります。 私は、通常の中国の医師や研究者とは異なる 家族的・文化的な背景をもっています。祖父の 代まで清朝侍医の家系であったことから、幼少 のころより祖父から「一子相伝」で侍医の家系に しか代々継承されることが許されない、貴重な 医学知識や医療技術を学ぶことができました。 このような家族環境で「中国伝統医学」の最高 峰の知識と成果、秘術等を身近で体得すること ができたという訳です。清朝が亡び、その後の 動乱期を経て現在の中国の体制へと移行する間 に失われていった数々の中国古来の知識や文化、 技術などが、私のこの頭の中と身体には自然と 宿されることとなったのです。『薬食同源』とは、 元来、食物と薬(漢方生薬)は同様の働きをする ものであることを四字成語として象徴的に表し た言葉です。実は、劉家が方剤する中医(漢方) 薬と飛雁閣料理の調理法は近似しています。卓 越した料理人は、料理の「下ごしらえ」に時間を かけ、また調理方法を秘密にしているところも よく似ています。普通の漢方薬は、生薬材料を そのまま煎じ、抽出するだけの方剤ですが、私 はある特定の酒や塩、酢などを使って製剤し、 その後患者さんに処方します。簡単な説明と しては、食材をそのまま皿に盛り、出す料理店 と名店の違いを想像してみてください。 食材がもつ五性(性質)や五味などを熟知し、 そのそれぞれが五臓(肝・心・脾・肺・腎)にど のように作用し、最大限に効用を発揮するのか ということを熟慮し、デザインをして料理をつ くる技と滋味こそが、薬食同源の醍醐味です。 近年、欧米のエスタブリッシュメントたちが こぞって中医薬を服用しSARS(新型コロナ)な どの感染症予防をするようになった背景には、 このような情報がネットや口コミなどを通じて 広く知られるようになったからでしょうか。 私は、以前『サントリー烏龍茶』の広告に出演 したときに、「21世紀以降の医療は“自然療法”が 世界の主流になる」と話しました。いよいよ、 その時代が来たのだと実感しています。 現代の病気は、因人(原因を自分がつくる)に よるものが、その多くを占めています。生活習 慣病、地球環境の激変、食物添加物の摂取、ス トレスなどから発症する疾病の原因の1つには 食生活の乱れがあります。薬食同源の重要性は、 今後、ますます増していくことになるでしょう。 元米国務長官ヘンリー・キッシンジャー氏が逝去された。 生前、度々中国に訪問し劉先生とも親交を温めてきた。 「おいしい!」を見事に表現した「飛雁閣の滋味」を堪能する 同ビルのオーナーの要請から「VIP専用クリニック」を開設する。
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