銀座飛雁閣お取り寄せカタログ2024/25

62 『御製本草品彙精要』は歴代中国の最後の勅撰本草書となる 稀覯本。明朝・弘治帝の命で劉文泰らが1505年に編纂した。 「おいしい!」と感じる幸福感は、「胃と脳の連携プレイ」 劉博士の『薬食同源』の話をお聞きしながら、 「おいしいって、なに?」という根源的な問いが 湧いてきました。もしその問いの回答が味覚・ 舌にあるのではなく「胃」にある、としたならば 皆さんはどう思われるでしょうか。この分野の 最新の研究成果が、近年、続々と発表されてい ます……。 「人を幸せにするのは胃袋である」。この名言 を遺されたのは、あの日野原重明博士ご自身が 多大な影響を受けられたと話す、W・オスラー 博士です。オックスフォード大学やジョン・ホ プキンス大学などで医学部教授を歴任、現在の 医学教育の基礎を築いた、19世紀末から20世紀 初頭に御名を馳せた医師・研究者です。 20世紀末、日本人が世界で初めて「グレリン」 という胃から分泌される「ホルモン」を発見し、 その成長ホルモンの働きが、肥満や摂食障害な どに作用していることが解明されました。同時に、 今まで見過ごされてきた「胃」という臓器の知 られざる一面への研究も進んできています。こ のグレリンというホルモンは、空腹になると血 液の中に分泌され、脳に届くと食欲が刺激を受 けて空腹感を感じるという働きをします。また 困ったことに、グレリンは食事をした直後から でも食欲を感じ易くする作用を発現し、肥満へ と繋がる危険性もはらんでいます。このように 食欲亢進やその結果の脂肪蓄積など余り嬉しく ない働きも併せもっています。 ところが2019年、このグレリンを発見した 久留米大学の児島教授らの研究から、グレリン がドーパミンと同様に、脳内報酬系に作用する ことがわかってきたのです。この研究成果から 「胃は食の喜びを伝える臓器」として一躍脚光 を浴び始めました。そればかりか、久留米大学 学内の様々な研究所や研究者との共同研究から 「運動へのモチベーション」を高める効果を発 揮することもわかってきたのです。 「中国伝統医学」では「生理と心理」という2 つの働きを「自然」と捉える「自然順一」の世界 観が、現在の最新医科学研究の成果を予見でき ている、という事実に多くの研究者から注目を 集めるようになってきました。「腸活や脳活」 などが最近のブームにもなっていますが、元来、 この分野の予防医療では「漢方(中医)」の人気 がますます高まり、「自然療法」でのトリート メントの主流となっています。 さて話題を「人を幸せにする胃袋」に戻しま しょう。鳥には胃袋が2つあり、牛には胃袋が 4つあります。人間は1つです。ではこの違い はどうして起こったのか。ライフサイエンスと いう分野での統合医学的な研究が活発に行われ、 次々と驚愕の事実が解き明かされつつあります。 人間は動物の進化の歴史の頂点にいます。その 一例が、胃袋が1つで済むように進化を遂げた 「雑食動物」であるという事実です。また一方 では、その食性から「胃酸が非常に強い」とい う利点と弱点の両面をもってもいるのです 60年代頃から日本人の胃酸が年々濃くなっ てきたという研究データがあります。その原因 は食生活の変容です。脂肪と動物性タンパク質 の多い食事が増えたことから、それらを消化す るために胃酸が強くなってきた。このように生 活習慣の変化が短期間に、急激に起こったこと が原因で様々な身体的不調が発症したことは自 明でしょう。中医学には「変万病」という言葉 があります。病気は絶えず時間・場所・人など と共に変化していきます。自然界の全てのもの を相反する2つの要素で捉える『陰陽五行説』 の考え方は、中医学の根本的な学理を形づくっ ています。相互に依存・対立しながらもその 時々で流動的に変化し、最適なバランスを保つ。 「食の幸せを伝える胃袋の健康を守ること」と、 「おいしさを堪能する」ことを自分自身で管理 できることの幸福を、感謝しましょう。

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