Trivia Line「アワビ」

「磯のアワビの片思い」の風雅を味わう

「磯のアワビの片思い」
の風雅を味わう

アワビは、縁起物の象徴として『日本書紀』や『古事記』にも登場し
毎年、伊勢神宮にご献上される“海の宝石”。
中国料理で供される干しアワビは、“乾貨”と称される超高級食材です。

アワビは、縁起物の象徴として
『日本書紀』や『古事記』にも登場し
毎年、伊勢神宮にご献上される“海の宝石”。
中国料理で供される干しアワビは、
“乾貨”と称される超高級食材です。

日本では縄文時代よりアワビは食物として、食器としても常用されてきたことがわかっています。また、その光り輝く姿から貝殻の真珠層を使う「螺鈿(らでん)」として活用されるようにもなりました。奈良時代に唐からその技術が日本へと伝わり、平安時代になって漆芸美術の最高峰・蒔絵と双璧をなす美術工芸品の貴重な素材となり、現在に至るまで、その技法と文化財は「無形文化遺産」として承継され遺されてきました。

アワビのあの堅い見た目に護られている内奥に潜んでいる食感には、歴史的な逸話と同様に味わい深いものがあります。ちなみに平将門や織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった天下人の食膳には必ずアワビがのっていたという記録が残っています……。

銀座 飛雁閣『Salon de Higankaku“News & Olds”』Trivia Line「アワビ」①

アワビには、数多くの「吉品・縁起物」としての我が国固有の「謂れ」があることから、もう少しアワビにまつわる小話を続けていきましょう。
日本では古来、新鮮な海の幸や山の幸を神さまに供える文化・風習があり、中でもアワビは「不老長寿」をもたらすとされ、祝いごとがあるときには一緒に贈られました。アワビを引き伸ばして干したものが「熨斗(のし)鮑」です。引き伸ばすことで「長寿と幸せ、慶びごと」がずっと続くようにという願いを表しています。熨斗の真ん中の黄色い部分が「熨斗鮑」です。

銀座 飛雁閣『Salon de Higankaku“News & Olds”』Trivia Line「アワビ」②

もっと深く知りたいと思われる方には「2000年以上も熨斗鮑を伊勢神宮にご献上し続けている」伊勢神宮御料鰒調整所のHPをご覧になられると、「民族文化財」指定を受けているその奥義を味わい尽くすことができます。是非とも、ご一読ください。

ここからは、箸休めとしてもいろいろと楽しめる小話をご紹介していきましょう。
巻頭にも記した「磯のアワビの片思い」には、「片思い」と「片重い」と書く二通りの書き記し方が、実は存在しています。
「片思い」の出典は、万葉集の中に「独念(かたおもい)」として表現された「伊勢の海人の歌」があります。その「こころ」は、海人が海に潜ってとってくるアワビは、実は巻貝ですが二枚貝の片方だけに見えること。また、片側だけはベッタリと岩にくっついていることに掛けて、片方は熱心に執着(粘着)し、片方は冷淡(堅い殻)なさまを「片思い」の悲恋として歌ったものです。

一方、「片重い」の方は、これは寿司屋の中だけで使われる「隠語」です。片側にしか殻がないこと(片方がやたら重い)が語源だそうです。
いずれにしても、アワビは「高嶺の花」、という象徴的な表現なのでしょうか……。

銀座 飛雁閣『Salon de Higankaku“News & Olds”』Trivia Line「アワビ」③

アワビ料理には、「活きアワビ」を使うものと「干しアワビ」を使う超高級料理の2種類があります。アワビの漁獲高が温暖化の影響などを受け、この50年間で約1/3程度に減少し、また養殖化が未だ難しいこともあり、ますます「高嶺の花」といわれる食材となりました。

日本産でアワビと呼ばれる種は、冷水系のエゾアワビ、暖水系の黒アワビ、メガイアワビ、
マダカアワビの4種類がありますが、黒アワビは「貝の王様」といわれています。
黒アワビ(エゾアワビも黒アワビ)は、他のアワビと比べて黒味が濃く食感や旨みが非常に強く、刺身ではコリコリ、熱をとおすと程よい弾力とモチモチとした食感が際立ち風味も一段と増してきます。

銀座 飛雁閣『Salon de Higankaku“News & Olds”』Trivia Line「アワビ」④

干しアワビは、中国でも超高級品はすべて日本産で、「乾鮑(カンパオ)」はツバメの巣、フカヒレと並ぶ三大食材として珍重されています。「一生に一度は両親に食べさせたい」といわれ、噛めば噛むほど「太陽の味が口の中に広がる」と表現される風味と味わいが垂涎の逸品となっています。また、乾物にすることでカルシウムが4倍に増えることからも、このような孝行話にもなっているようです。

銀座 飛雁閣『Salon de Higankaku“News & Olds”』Trivia Line「アワビ」⑤

アワビの歴史的な逸話や中国での親孝行話などをみても、不老長寿や健康増進などの食材としてアワビは古くから食されてきたことがわかります。低脂肪・高タンパク・低コレステロール。カリウム・鉄分・タウリンが多く含まれ視力の回復(特にキモは視神経の疲労回復に有効といわれています)や肝臓の働きを改善し、動脈硬化の予防効果があることが科学的にもすでに証明されています。

こうしてみるとけっして「片思い」の食材ではなく、料理人の技によって「磯のアワビは両思い」に変化することがわかってきます。高嶺の花から「健康・長寿の妙薬」へと変貌するアワビ料理の味わい深さを、是非ともご賞味なさってみてください。

*参考資料: 熨斗あわびと海女発祥の地 国崎神戸
*参考資料: 公益財団法人 海洋生物環境研究所
*参考資料: たべるご
*参考資料: 旬の食材百科
*参考資料: 笹川平和財団 海洋研究所